コモンモード電流が何 µA で CISPR 32 Class B を超えるか?ケーブルの計算例
1 m のケーブルにわずか約 8 µA のコモンモード電流が流れるだけで CISPR 32 Class B の放射限度値に達します。実際の数値で計算し、電流プローブで事前に確認できる判定値に換算します。
ケーブルに数 µA のコモンモード電流が流れるだけで放射エミッション試験に不合格になる、とよく言われます。この記事では短いケーブル(ヘルツダイポール)モデルと CISPR 32 Class B の限度値を使ってその話を実際の数値で確かめ、試験所に行く前に電流プローブで確認できる測定値に換算します。
計算モデル
波長より十分短いケーブル(L < λ/10)にコモンモード電流 I が流れるとき、距離 r におけるグラウンドプレーン上の最大電界はおよそ E = 1.257 × 10⁻⁶ · f · L · I / r です(f は Hz、L と r は m、I は A)。この係数には、オープンサイトや電波半無響室のグラウンドプレーン反射(×2)がすでに含まれています。E は周波数とケーブル長に比例するため、ケーブルが電気的に短い範囲では、同じ電流でも 30 MHz より 200 MHz のほうがはるかに不利です。
計算例:30 MHz での 1 m ケーブル
1 m の USB ケーブルまたは電源ケーブルと、距離 10 m での CISPR 32 Class B 限度値を考えます。30~230 MHz の限度値は準尖頭値で 30 dBµV/m、つまり 31.6 µV/m です。30 MHz の波長は 10 m なので、1 m のケーブルはちょうど λ/10 で、モデルをそのまま使えます。電流について解くと I = E · r / (1.257 × 10⁻⁶ · f · L) = 31.6 × 10⁻⁶ × 10 / (1.257 × 10⁻⁶ × 30 × 10⁶ × 1) ≈ 8.4 µA です。
つまり 1 m のケーブルに約 8.4 µA(18.5 dBµA)のコモンモード電流が流れると Class B の限度値に達します。一般的な 6 dB のマージンを確保するなら、目標は約 4.2 µA(12.5 dBµA)です。
周波数と長さによる許容電流の変化
このモデルは電気的に短いケーブルでのみ成り立つため、周波数が高くなるほど使える長さが短くなります。下の表はすべて λ/10 以下に合わせています。
| 周波数 | ケーブル長 | 限度値(Class B) | 距離 | 限度値に達する電流 |
|---|---|---|---|---|
| 30 MHz | 1 m | 30 dBµV/m | 10 m | 8.4 µA (18.5 dBµA) |
| 100 MHz | 0.25 m | 30 dBµV/m | 10 m | 10.1 µA (20.1 dBµA) |
| 200 MHz | 0.15 m | 30 dBµV/m | 10 m | 8.4 µA (18.5 dBµA) |
| 300 MHz | 0.1 m | 37 dBµV/m | 10 m | 18.8 µA (25.5 dBµA) |
| 30 MHz | 1 m | 40 dBµV/m | 3 m | 8.0 µA (18.0 dBµA) |
E = 1.257 × 10⁻⁶ · f · L · I / r(グラウンドプレーン反射を含む)で計算した値です。λ/10 を超えると実際のケーブルは共振アンテナのように振る舞い、このモデルは当てはまりません。
3 m の行の電流が 10 m の行とほぼ同じなのは、3 m の限度値が 10 dB 高く、距離比 10/3 が約 10.5 dB だからです。遠方界の放射源で 3 m と 10 m の限度値を 10 dB 差で換算する経験則が成り立つのも同じ理由です。
電流プローブの判定値に換算する
ケーブル全体をクランプした電流プローブは、コモンモード電流を直接読み取ります。I (dBµA) = レシーバの読み値 (dBµV) − 伝達インピーダンス Z_T (dBΩ)。校正証明書で 30 MHz における Z_T = 15 dBΩ のプローブなら、限度電流 8.4 µA(18.5 dBµA)はレシーバ読み値 33.5 dBµV に相当します。6 dB のマージンを取るなら 27.5 dBµV 以下を目標にします。
- ケーブル全体(すべての導体とシールド)をまとめてクランプすると、ディファレンシャル電流が打ち消され、コモンモード電流だけが測定されます。
- プローブをケーブルに沿って動かし、最大値を記録します。定在波のため、電流は位置によって変わります。
- Z_T は代表値ひとつではなく、そのプローブの校正データにある周波数ごとの値を使います。
- 本試験と同じ検波器と帯域幅(RBW 120 kHz、簡易スキャンは尖頭値)を使わないと比較の意味がありません。
対策選びにわかること
µA レベルの電流は回路を流れる mA の電流に比べてごく小さく、わずかな不平衡から生じます。インダクタンスが数 nH のグラウンド接続、ピグテールで接続したシールド、コネクタ部のフィルタ不足などです。30 MHz で約 100 Ω のコモンモードインピーダンスを加えるフェライトクランプは、源インピーダンスが低ければ電流を数分の一に減らせるため、6 dB を取り戻す最も安い方法であることが多いです。プローブで効果を確かめたあと、測定不確かさを含めて限度値に対するマージンを再確認してください。
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