EMCとは何か:エミッション、イミュニティ、結合経路の基本

ハードウェア技術者向けのEMC入門。エミッションとイミュニティの違い、発生源・経路・被害機器モデル、4つの結合経路、CE・FCC・KC・VCCI取得までの手順を解説します。

公開日: 2026-11-04 · 最終更新: 2026-11-04

電磁両立性(EMC)とは、機器が自らの電磁環境で満足に機能し、かつその環境内のいかなるものにも許容できない電磁妨害を与えない能力です。国際電気標準用語(IEV 161-01-07)にあるこの定義は二つの部分からなり、実務で出会うEMC要求はすべてどちらかに対応します。本記事では、この二つの部分、あらゆる干渉問題の分析に使う発生源–経路–被害機器モデル、そしてEU・米国・韓国・日本などの市場で製品を販売するまでの手順を説明します。

エミッションとイミュニティ:EMCの二つの側面

エミッション要求は製品が外に出すものを制限します。ケーブルに伝導する雑音と、筐体やケーブルから放射される電磁界が対象です。イミュニティ要求(アジア市場では電磁感受性の意味でEMSと書くことが多い)は、製品が合理的に予想される妨害にさらされても動作し続けるかを確認します。使用者による静電気放電、近くの無線機からのRF電磁界、負荷の開閉による高速過渡、電源線への雷サージなどです。一方に合格し他方に不合格となることがあるため、両者は別々に設計し、別々に試験します。

項目エミッション (EMI)イミュニティ (EMS)
問い製品はほかの機器を妨害するか?妨害を受けても製品は動作し続けるか?
主な現象電源・信号ポートの伝導雑音、放射電磁界、電源高調波とフリッカESD、放射RF電磁界、高速過渡(EFT/バースト)、サージ、伝導RF、商用周波数磁界、電圧ディップ
代表的な基本規格CISPR 16シリーズ(測定方法)IEC 61000-4-2、-4-3、-4-4、-4-5、-4-6、-4-8、-4-11
代表的な製品規格・共通規格CISPR 32、CISPR 11、CISPR 14-1、CISPR 15、IEC 61000-3-2、IEC 61000-3-3CISPR 35、CISPR 14-2、IEC 61000-6-1、IEC 61000-6-2
結果測定レベルを限度値線と比較(dBµVまたはdBµV/m)試験レベルを印加し、EUTの動作を性能判定基準A・B・Cで判断

イミュニティ試験の結果は数値ではなく判定です。基準Aは試験中も試験後も仕様内で正常に動作することです。基準Bは試験中の一時的な性能低下を認めますが、試験後にEUTが自力で回復しなければなりません。基準Cは機能を復旧できることを条件に、操作者の操作や再起動が必要な一時的な機能喪失を認めます。試験ごとにどの基準を適用するかは製品規格が定めますが、その製品にとって正常動作とは何かは製造者が定義する必要があり、その定義は試験開始前に試験計画書に入れておきます。

発生源–経路–被害機器モデル

あらゆる干渉問題には三つの要素があります。妨害を生む発生源、それを伝える結合経路、機能が影響を受ける被害機器です。どれか一つを取り除くか弱めれば問題は消えます。このモデルは双方向に使えます。エミッション試験では製品が発生源で、受信アンテナやLISNが被害機器の代わりです。イミュニティ試験では試験発生器が発生源で、製品が被害機器です。

四つの結合経路

経路メカニズム典型例最初の対策
伝導性(共通インピーダンス)ある回路の電流がほかの回路と共有するインピーダンスを流れるモータの帰路電流がADC基準電圧と同じグランドパターンを共有帰路の分離、ベタのグランドプレーン、フィルタ
容量性(電界)近くの導体へ変位電流 i = C · dV/dt が流れる降圧コンバータのスイッチングノードの隣を通るセンサ配線dV/dtやノード面積の縮小、間隔の拡大、接地したガードやシールド
誘導性(磁界)近くのループに電圧 v = M · di/dt が誘導されるゲート駆動ループが並走する信号ループに結合ループ面積の縮小、信号の隣に帰路、直交配線
放射(電磁界)ケーブルや構造物がアンテナとして働く。主に約λ/2πより遠方USBケーブルのコモンモード電流がクロック高調波で放射コネクタ部でのコモンモードフィルタ、シールドのボンディング、高調波成分の低減

これらの影響は過小評価されがちです。10 V/nsでスイッチングするノードの隣に浮遊容量がわずか1 pFあるだけで、エッジの間に10 mAが注入されます。相互インダクタンス5 nHに0.1 A/nsの電流エッジが加わると0.5 Vが誘導されます。近傍界の境界λ/2πは100 MHzで約0.48 mなので、一般的な筐体内部の結合はほとんどが容量性か誘導性の近傍界結合で、試験アンテナまで放射するのは通常、筐体から出ていくケーブルです。

どこで連鎖を断つか

発生源を直すのが通常は製品あたりのコストが最も安く、効果も最大です。タイミングが許す範囲でエッジを遅くし、スペクトラム拡散クロックを使い、電流ループを小さくします。次が経路の対策で、ケーブルが出る境界にフィルタを置き、シールドし、配置を分離します。入力フィルタ、ソフトウェアの妥当性チェック、ウォッチドッグで被害機器を強化することはイミュニティには不可欠ですが、エミッション不合格には何の効果もありません。プロジェクト終盤にケーブルへフェライトクランプを付けるのは経路の対策です。効くことが多いものの、製造するすべての製品にコストが上乗せされます。

設計から市場投入まで:EMCの手順

電子製品の典型的な流れは次のとおりです。

  • 市場と製品分類を決めます。分類が規格を決めます。マルチメディア・IT機器はエミッションにCISPR 32、イミュニティにCISPR 35、工業・科学・医療(ISM)機器はCISPR 11、家電製品と電動工具はCISPR 14-1とCISPR 14-2、照明機器はCISPR 15を使います。EUではEN 55032、EN 55035のようにEN版として現れます。
  • 最初の回路図からEMCを考えて設計します。グランドプレーンと層構成、すべてのコネクタのフィルタ用フットプリント、筐体の継ぎ目とケーブル引込部が対象です。金型製作や認証後の変更ははるかに高くつきます。
  • プリコンプライアンス確認を行います。近傍界プローブ付きのスペクトラムアナライザとケーブルに付ける電流プローブ、伝導エミッション用のLISN、可能ならESD試験器を使います。結果は絶対値ではなく相対値なので、マージンを確保します。多くのチームは限度値より3~6 dB低い値を目標にします。
  • 試験計画書を書きます。雑音が最も大きく最も敏感な機能を動かす動作モード、ケーブル長と配置、補助機器、イミュニティ試験ごとの合否の定義を含めます。
  • 認定試験所(ISO/IEC 17025)で試験し、試験したハードウェアとファームウェアの正確なバージョンを報告書と一緒に保管します。
  • 市場ごとの適合性手続きを完了し、設計が変わっても有効な状態を保ちます。
市場法的根拠宣言または承認の主体表示
欧州連合EMC指令 2014/30/EU (無線機器: RED 2014/53/EU)製造者。EU適合宣言書と技術文書CE
米国FCC 47 CFR Part 15 (非意図的放射器)責任当事者による供給者適合宣言(SDoC)、一部の機器はFCC認証認証機器はFCC ID、SDoCではロゴは任意
韓国電波法。国立電波研究院(RRA)による適合性評価機器の種類に応じて適合認証または適合登録KC
日本IT機器を対象とするVCCI制度(業界の自主規制)会員企業が試験後にVCCIへ届出VCCI

放射エミッションの限度値は特定の測定距離、通常は3 mまたは10 mに結び付いています。プリコンプライアンスではより近くで測ることが多く、20·log(d)則による換算は近似にすぎません。どんなときに外れるかは3 m→10 m限度値換算の記事で説明しています。小さなマージンが本当に合格かを判断するには、限度値マージン・不確かさ判定の計算ツールが役立ちます。

よくある誤解

  • 「エミッションに合格すればEMC適合だ」。イミュニティは別の試験群で、ESDや高速過渡の試験はエミッション試験では決して表れないファームウェアのフリーズをよく見つけます。
  • 「EMCは最後に試験するものだ」。その時点ではPCBも筐体も確定しており、対策はフェライト、ガスケット、シールドケースになって、すべての製品にコストが上乗せされます。
  • 「グランドはグランドだ」。高周波ではグランド線はインダクタです。よく使われる経験則のmmあたり約1 nHを当てはめると、10 cmの線は約100 nHで、100 MHzで約63 Ωになります。
  • 「金属筐体なら全部解決する」。フィルタなしで壁を貫通するケーブルは雑音をそのまま外へ運び、長い継ぎ目やスロットは開いた穴と同じくらい漏れることがあります。
  • 「プリスキャンで1 dB差で合格したから大丈夫」。放射エミッションの結果はセットアップや試験所によって通常数dB異なり、量産品にもばらつきがあります。小さなマージンは合格ではなくリスクです。
  • 「良いサンプル一台で適合性が証明される」。適合性は市場に出すすべての製品に適用されるので、部品の代替、PCBの改版、クロックやスイッチング動作を変えるファームウェア変更でさえ見直しが必要です。
本記事は概要です。どの規格・版・限度値が適用されるかは製品、市場、時期によって異なるため、試験を計画する前に最新の整合規格や引用規格の一覧を確認してください。

この記事で使った計算ツール

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計算結果と要約は参考情報です。認証や試験成績書には、最新の規格原文と校正済み機器の値を使用してください。